心理学における「ジェイムズ・ランゲ説」とは?
ジェイムズ・ランゲ説は、アメリカの心理学者であるウィリアム・ジェイムズとデンマークの心理学者であるカール・ランゲがほぼ同時期に唱えた情動の本質についての説です。この説は、「環境に対する身体的・生理的反応の認知が情動を生む」という考え方に基づいています。
ジェイムズ・ランゲ説によれば、人間が何かの刺激を受けた際、まず身体的・生理的反応が生じます。例えば、危険な状況に直面した場合、心拍数が上昇し、呼吸が荒くなり、筋肉が緊張します。これらの身体的・生理的反応を認知した人間は、自分が恐怖を感じていると認識します。
つまり、ジェイムズ・ランゲ説は、情動は身体的・生理的反応の後に生じるという考え方です。この説は、当時の主流だった「感情が先、身体的・生理的反応が後」という考え方に対して革新的なものでした。
ジェイムズ・ランゲ説は、その後の情動研究に大きな影響を与えました。この説を支持する研究も数多くあります。例えば、リチャード・ダヴィドソンは、脳の扁桃体を損傷した人は、恐怖などの負の感情を感じにくいことを発見しました。扁桃体は、恐怖などの負の感情を処理する脳の領域です。このことは、ジェイムズ・ランゲ説が主張するように、恐怖などの負の感情は身体的・生理的反応と関連していることを示唆しています。
しかし、ジェイムズ・ランゲ説には批判もあります。例えば、ロバート・ザイオンスは、意識されない身体的・生理的反応でも、情動に影響を与えることを示しました。ザイオンスの研究によれば、人は、自分が怒っていることを意識していなくても、心拍数が上昇していることを認識すると、より強い怒りを感じるようになります。このことは、ジェイムズ・ランゲ説が主張するように、情動は必ずしも身体的・生理的反応の認知によって生じるわけではないことを示唆しています。
ジェイムズ・ランゲ説は、情動の本質を理解する上で重要な説です。しかし、情動は複雑な現象であり、ジェイムズ・ランゲ説だけですべてを説明することはできません。情動についてより深く理解するためには、様々な説を考慮する必要があります。
参考URL
情動・感情 : 心理学用語集 https://psychologist.x0.com/terms/132.html